1981年、聖ヨハネ・パウロ2世教皇は広島で、「過去を振り返ることは、将来に対する責任を担うことである」と述べられました。
戦争を振り返り、平和を思うとき、平和は単なる願望ではなく、具体的な行動でなければなりません。そこで日本のカトリック教会は、その翌年、もっとも身近で忘れることのできない、広島や長崎の事実を思い起こすのに適した8月6日から15日までの10日間を「日本カトリック平和旬間」と定めました。
「平和旬間」に広島教区と長崎教区では、全国から司教をはじめとして多くの信者が集まり、「平和祈願ミサ」がささげられます。
各教区でも、平和祈願ミサや平和行進、平和を主題とした映画会、講演会、研修会、平和を求める署名などが行われます。
2019年平和旬間 日本カトリック司教協議会会長談話
平和は「すべての人の全人的発展の実り」1981年2月25日、聖ヨハネ・パウロ二世教皇は、広島で鮮烈な平和アピールをなさいました。そのアピールに呼応して日本の教会は翌年から「日本カトリック平和旬間」(8月6日~15日)をもうけて、平和について考え、平和のために祈り行動するよう努めてきました。「広島平和アピール」から38年9カ月後の今年11月、教皇フランシスコが日本を訪問され、新たな平和メッセージを世界に向けて発信してくださるものと期待しています。
教皇フランシスコは、就任以来、折に触れて平和と核兵器廃絶について発言してこられました。2017年7月7日、国連総会で「核兵器禁止条約」という画期的な条約が採択されました。これに先立つ3月23日に、教皇は国連総会に次のようなメッセージを送られました。テロ、軍事力の差のある者同士の紛争、情報の安全確保、環境の問題、貧困などは、複雑に絡み合って、現代世界の平和と安全を脅かしています。しかし核の脅威はそのような課題に効果的に応えることはできません。恐怖に基づく安定は、実際には恐怖をさらに増し、諸国民の信頼関係を損なうだけです。もしそうなら、その安定をどれだけ維持できるか自問すべきです。「国際平和と安定は、互いの破壊または全滅の脅威とか、単なる力の均衡の維持といった、誤った安心感の上に成り立ち得ません。平和は、正義、人間の全人的発展、基本的人権の尊重、被造物の保護、すべての人の社会生活への参加、諸国民間の信頼、平和を重んじる制度の促進、教育と福祉の恩恵に浴すること、対話と連帯の上に築かれなければなりません。」なお、バチカンは「核兵器禁止条約」を最初に批准した三カ国の一つですし(9月20日)、11月には国際会議「核兵器のない世界と総合的軍縮への展望」を主催しました。
教皇フランシスコによると、「すべての人の全人的発展」とは、諸国民の間に経済格差や排除がないこと、社会がだれ一人排除されず、だれもが参加できる開かれたものであること、人間の成長発展になくてはならない経済、文化、家庭生活、宗教などが保障されること、個人が自由であると同時に共同体の一員であること、一人ひとりに神が現存されることなどを意味します。平和は、この「すべての人の全人的な発展の実り」として生まれるのです(使徒的勧告『福音の喜び』219)。従って、世界の平和と安全を築き確かなものとするためには、核兵器廃絶によって核の脅威を払拭するだけではなく、それと同時にすべての人があらゆる面でより豊かにされていく必要があるということです。
教皇とともに、核兵器廃絶の実現を求めつつ、すべての人の全人的発展に深くかかわることによって平和をつくっていくことができるよう、平和の神に熱心に祈り、それぞれができることから始めるようにいたしましょう。
2019年7月7日
日本カトリック司教協議会会長
カトリック長崎大司教 髙見 三明