司教の手紙

《2024年 年間目標》洗礼の恵みに気づき、それを生きよう(9)

投稿日:2024年9月1日 更新日:

中野裕明鹿児島司教

中野裕明 鹿児島司教

鹿児島教区司教 中野裕明

「被造物を大切にする世界祈願日 すべてのいのちを守るための月間」について

教区の皆さま、お元気ですか。今回は日本の司教団が制定している「被造物を大切にする世界祈願日 すべてのいのちを守るための月間」についてお話しします。

このテーマと月間を設定した動機は、2015年の聖霊降臨の祭日に発布された教皇フランシスコの回勅「ラウダート・シ」にあります。これは地球環境の問題を取り扱った初めての社会教説であります。このタイトルは、元来アシジのフランシスコが1225年ごろ創作した詩「私の主よ、あなたはたたえられますように!」(「太陽の歌」)から援用したものです。この詩は、死に向かうフランシスコが、天体を含めた被造物を通して創造主である神を賛美するという内容になっています。従って、日本の教会は、この地球環境月間を9月1日からアシジの聖フランシスコの記念日の10月4日までとしました。

この回勅の内容と目的は、大雑把に言うと創世記1章に描かれている情景を思い起こさせるものです。すなわち、天地万物の創造主である神が、地上のすべてのものを創造し、それらを神の似姿に創造された人間に治めるように委ねたというメッセージです。しかし、「創造の初めは極めて良かった被造物(創世記1章31節)であるこの地球が現在悲惨な状況になっている」と教皇はこの地球に住んでいる私たちに警告しているのです。そして、被造物にすぎない私たち人類は謙遜になって、この地球を創造主のみ旨に適う方向で運営していくように促しているのです。

聖書を信仰の基盤とするキリスト教徒は、暦の中で聖書に書かれてある字句を神の言葉として大切にしてきました。ところが、文明が発達していく中で天体や生物体の生態が聖書に書かれていることと違うのではないかとの考え方が発生してきました。そのような人々を列挙します。

  1. コペルニクス(1473〜1543、ポーランド)。彼はそれまで、聖書の文言に従って理解されていた天動説を覆し、理論的に地動説を唱えました。
  2. ガリレオ(1564〜1642、イタリア)。彼は、コペルニクスの地動説を天体の観察を通して実証しました。
  3. ダーウィン(1809〜1882、イギリス)。生物学者の彼は、「種の起源」を研究し、生命体の進化論を著しました。その中で「人間という種も進化の過程で出現した」と唱えました。

このように文明の発達は科学の発達に依るものであることが分かります。そうすると、キリスト教会の中では、聖書の信憑性に疑問符が付き、科学と宗教は対峙する存在となっていきました。

西欧の17世紀以降に隆盛した啓蒙思想は反キリスト教の立場をとっています。啓蒙思想とは一口に言うと、それまで人々の根幹にあった「信仰」の所に「理性」を置き、「信仰」の対象だった「神」を「自然」に変えて行った運動だったと言えます。

そうした中、カトリックの世界では、二つの動きがありました。それは、①テイヤール・ド・シャルダン(1881〜1955、フランス)です。彼はイエズス会士で、古生物学者です。中国で北京原人の発掘に参加しました。彼は、ダーヴィンの進化論を肯定的に捉え、進化の頂点は人間であり、さらにその進化はオメガであるキリスト(ヨハネの黙示録21章6節)に向かって進んでいき完成すると説き、その原動力は「愛」であるという大胆な思想を発表しました。

この思想は、1962年、ローマの倹邪省により正統信仰を歪める恐れがあるというクレームがつきましたが、その後の歴代の教皇は、彼の思想を好意的に捉えており、とりわけ教皇フランシスコについては、彼の名前こそ控えていますが、回勅「ラウダート・シ」の中で彼の思想を引用していますし(「ラウダート・シ」83番参照)、回勅全般にわたって科学的論考を怯(ひる)むことなく信仰の視点で語っています。

次に紹介したいのは、教皇ピオ12世(在位1939〜1958、イタリア)の回勅「ディヴィノ・アフランテ・スピリツ」です。この回勅は、聖書の解釈をめぐり様々な議論が起こっていた最中、「聖書の文学類型」を基に解釈する方法を義務付けました。

聖書は科学書ではないので、様々な文書は文学、歴史、教訓、詩歌など、また作者や編集意図、書かれた時代背景や文化的背景などを考慮に入れて解釈しなければならないとしました。さらに「聖書の学問的研究の自由」を認めました。

この二つの決定は、第2ヴァチカン公会議の啓示憲章の中、「(教会の)教導職は神のことばの上にあるのではなく、これに奉仕するものであって伝承されたものだけを教えるのである」(神の啓示に関する教義憲章10番)という文言に反映されています。

長く複雑な説明になってしまいました。最後に私の司牧体験からお話しします。

教会に通っていた男子が小学4年生ごろから来なくなりました。理由は、学校のクラスで「人間は神によって造られた」と発言したら、担任が「人間は猿から進化したのよ」と言って恥ずかしい思いをしたそうです。それが教会から遠のく原因でした。ダーヴィンの進化論はあくまで仮説であり、そのすべてが実証的に証明されているわけではありません。

先ほど紹介した、テイヤール・ド・シャルダンは「類人猿と最初の人類の頭蓋骨の容量は明らかに差がある。前者は1000㏄未満であり、人間は1000㏄以上である」と主張し、「この差は突然変異としか言えない」と言っています。

回勅「ラウダート・シ」にはたくさんの科学用語や専門用語が使われています。「科学と宗教」、「理性と信仰」との関係性について、自分なりに一貫性のある信仰理解に努めたいものです。

鹿児島カトリック教区報2024年9月号から転載

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