司教の手紙

「信仰の戦い」について

投稿日:2025年11月3日 更新日:

中野裕明鹿児島司教

中野裕明 鹿児島司教

教区の皆さま、お元気でしょうか。

今回は、11月第3主日から第4主日の間に実施される「聖書週間」に因み、聖パウロの言う「信仰の戦い」についてお話します。

1テモテ書に次の文章があります。

「しかし、神の人よ、あなたはこれらのことを避けなさい。正義、信心、信仰、愛、忍耐、柔和を追い求めなさい。『信仰の戦い』を立派に戦い抜き、永遠の命を手に入れなさい。命を得るために、あなたは神から召され、多くの証人の前で立派に信仰を表明したのです」。(6・11〜12)

若干説明を加えます。

テモテは、使徒聖パウロの弟子で、エフェソの教会を治めていました。今でいえば、司教(監督)に当たります。

この手紙の内容は、いわば教会を治める司教の指南書と言われるものです。

冒頭にある「これらのこと」とは、直前に書かれてある「ねたみ、争い、中傷、邪推、絶え間ない言い争い…」(1テモテ6・3〜10参照)が教会内に存在しているという指摘です。

すなわち、宣教司牧上の様々な混乱や、困難にどのように立ち向かったらいいのかが教示された文章になっています。まさに、故教皇フランシスコが遺産として残した「シノドス流の教会」(第16回シノドス最終文書 2025年5月発行)に盛られている内容と酷似しています。

さて、「信仰の戦い」とありますが、「信仰すること」と「戦う」ことは相反する行為のように思えます。

しかし、その意図は、イエス・キリストの提示した、福音的価値(正義、信心、愛、忍耐、柔和など)を教会の中で、強く堅持しなさいということでしょう。逆に言えばそれらがなくなるとキリストの教会とはもはや言えない、と理解すべきだと言えます。1テモテ書を最初から読めば、当時の事情がよく分かります。

つまり、私たちが頂いている信仰は、「常に刷新される必要がある」ということです。換言すれば、生きた信仰とは、神との絆を弱めたり、あるいは断ち切ったりする悪の誘惑に対して戦う姿勢を表すことである、と言えます。

悪の誘惑については、二つの例を挙げることができます。

一つは「イエス」で、もう一つは、人祖「エワ」の例です。

イエスの場合は、荒れ野での(ルカ4・1〜12参照)、人祖の場合は、エデンの園(創世記3・1〜7参照)での誘惑です。

これらの例で共通していることは、悪魔、すなわち試みる者は、聖書の言葉(イエスの場合)と神の意思(エワの場合)を使っています。つまり、彼らはわたしたちを一旦信用させようとします。その時点でだまされるか、或いは留まって拒絶するかは本人次第ですが、この場面で、葛藤、或いは、内心の戦いが生じます。この内心の戦いのことをテモテ書は「信仰の戦い」と表現していると思います。

ところで、私たちは、信仰者として、テモテ書に倣って福音的価値観(正義、信心、愛、忍耐、柔和)を日々の生活の中で追求しましょう。

主日のミサにあずかり、神の言葉とご聖体から霊的活力を頂き、生活の現場で、福音の価値観を実践していきたいものです。

典礼暦も終わりに近づき、通常聖年も残すところわずかとなりました。有終の美を飾りましょう。

鹿児島カトリック教区報2025年11月号から転載

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