司教執務室だより

島田喜蔵神父を思う(2)

投稿日:

島田喜蔵神父

ザピエル教会創設者、初代主任司祭トマス島田喜蔵神父

「なるほど、なるほど、ああ、そうですか。」
島田喜蔵神父様は、どんな質問に対しても、どんなぶしつけな言い方に対しても決して怒ったりしないで、頷きながら最後まで聞かれたという。聞き終わると、「なるほど、立派なお考えです。…今度はわたしの意見を聞いてください」と言ってゆっくり解かれるのが常で、「私の説を破りたいと思われるのなら、これこれの一句を破りなさい。ここが崩れると私の論説は根底からひっくりかえってしまいます。お帰りになったらよくお考えください」とヒントを与えて帰ってもらっていたという(浜脇教会の牧者たち第1巻 下口勲著253頁)。

この話は、哲学時代の自分を思い起こさせた。そして、相手に入り込む隙を与えないほどに理路整然と論証される神父様をまぶしく感じた。当時は、試験の答案はありったけの知識を動員してレポート形式でしかもラテン語で書くものだった。

「郡山君の思想は荒っぽい。」答案を返しながら評された司祭の言葉を今も忘れない。哲学生として「あー言えば、こー言う」ことに長けていると内心自負していた私には不満の残る批評だった。

しかし、この評価は司祭になって今に至るまで、説教を準備するときの大事な指針の一つとなっている。カギとなる言葉が見つかったらその言葉を巡って話を組み立てる。聞く人々に共感してもらえるか、独りよがりの視点に立っていないか、単なる嫌味や皮肉を言っているだけではないのか、常識的な教訓に終わっていないか、信仰を刺激するチャレンジがあるか等々。

「思想が荒っぽい。」今も時折、笑うと童顔のあの若かりし頃の司祭の顔が蘇る。

話が横道にそれたが、島田神父様の宣教は一貫して「座談形式」で、説教以外、大勢に説くことはなさらなかったらしい(同上255頁)。悔しい思いをして帰っていった人々は、何度も通って反論を試みているうちにほとんど皆、洗礼を受けたのだという。

尊敬の眼で師を仰ぐかつての論客たちと穏やかにほほ笑む神父様。そういう人々で満たされていく教会。ザビエル教会草創期の高揚した雰囲気につい我を忘れた。

お勧めの記事

2025年聖年ロゴマーク 1

教皇フランシスコは、今年の主の昇天の祭日に2025年の「聖年」公布の大勅書『希望は欺かない』を発表しました。それで今回は「聖年」についてお話しします。聖年とは1300年に教皇ボニファチウス8世によって始められたカトリック教会の一大イベントです。

中野裕明司教の紋章 2

利害関係で構築されている政治の世界であっても、少なくとも神の国の価値観、すなわち「真理と生命」を大事にする政治家が増えることを願ってやみません。

中野裕明司教の紋章 3

鹿児島教区司教 中野裕明 「対話を通しての宣教」について 教区の皆さま、お元気でしょうか。 今回は「世界宣教の日」(10月20日)に因み、「対話を通しての宣教」についてお話しします。 さて、カトリック ...

中野裕明司教の紋章 4

鹿児島教区司教 中野裕明 「被造物を大切にする世界祈願日 すべてのいのちを守るための月間」について 教区の皆さま、お元気ですか。今回は日本の司教団が制定している「被造物を大切にする世界祈願日 すべての ...

中野裕明司教の紋章 5

8月15日は「太平洋戦争終結の日」であり、「聖フランシスコ・ザビエルによる日本へのキリスト教伝来」の日であり、「聖母被昇天の祭日」でもあります。これらの出来事において、「天の父の御心」が実現した日であることを感謝し、世界の紛争地に1日も早く平和が実現するように祈りましょう。

-司教執務室だより
-,

Copyright© カトリック鹿児島司教区 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.